一人書店革命

最近、すみびらき書店や、一人書店といった、面白い試みをしている方々に知り合う機会が増えてきた。

初めは、鹿野青介さんの開いた、「しかのいえ」であった。

こちらは、自宅の一部を開放し、二階をレンタルスペースとして貸し出したり、一階の書店スペースで本とお茶を商ったりする不思議な空間だ。


我が家では小さい頃から、来客の絶えない家は繁栄する。と教わってきた。戸が笑うのである。

自宅兼店舗、というのは斬新であるが、どこか懐かしい。

昔の商店や駄菓子屋の、お店の奥にお茶の間があるイメージを彷彿とさせる。
やさしさと感性の人、鹿野さんが厳選した本が、特注の「本のおかもち」の中に収められている。
そんなしかのいえは十条の住宅街の隅に、ひっそりと佇んでいる。なんだか秘密基地を一つ、見つけたみたいでうれしい。



お次は住み開き書店・間借り書店を営むtsugubooksさん

この前お会いしてから、まだお店(お家?)には伺ったことはないが、自分に「住み開き」ってこんなにメジャーな概念だったのか!と驚きを下さったお一人である。

なんとかなり気になっていた物件「読む団地」を彩る約千冊の選書に携われたのだとか。

読む団地でのイベントの様子はこちら↓


3人目は吉満さんに紹介頂いた駒澤大学前駅の小粋な書店 SNOW SHOVELING BOOKS & DIALOGUE


雪かきという店名に北国出身の心が動く。博物学者の書斎に潜入したような感覚になる、隠れ家みたいな書店である。古書から新本、洋書やZINEまで幅広く、けれど一本の筋に沿って集められた本が迎えてくれる。さながら本のセレクトショップである。


4人目は九州、久留米中心に活動している移動式本屋 ruco-bon*のるーこさん

こちらに至ってはお会いしたことこそないが、読書のすすめ主催の勉強会、逆のものさし講の冊子を毎回美しく仕上げて下さる方で、ずっとお世話になり続けている。どくすめ小川さんとの対談動画で初めてお話を伺ったのだが、情熱と行動力の方である。

おみくじ×読書という面白い試みをされており、ライブ配信後、「大凶を引きたい!」という猛者(物好き?)が殺到したそうな・・・


おみくじ読書 るーこぼんみくじDXを引いてみたい方はこちら↓


Facebookのファンページはこちら↓


以上、新しく面白い試みで世界に波紋を投げかける魅力的な書店が増えてきている。






この前とあるイベントで鹿野さんが提案してくれた、「読者よ、本を売ろう」というアイデア。


従来の書店業界では、「取次」という本の卸問屋みたいな会社が、出版社と書店を繋いでいた。注文もしていないのに届く売れ筋の本、限られた出版部数の本を、売れる書店から順に配本するシステム・・・。大量生産、大量消費の時代ではそれでも良かったが、メディアの種類が増え、次々とネットに取り込まれる現代ではそうはいかない。

この辺りは、中田敦彦のYoutube大学「書店業界の危機①、②」で分かりやすく解説されているのでそちらを参照していただきたい。


その点を踏まえて、これまで出版社も、書店も十二分に努力をしてきた。と鹿野さんは語る。

確かに、「読書のすすめ」のようにそもそもほぼ全て読んだ本、千数百冊で書店を構成するなんて、なかなかできる事ではない。

出版業界の危機に伴い、現在までにどんどん、取次との大型の取引以外の取引手法が生まれてきている。出版社との直取引、トランスビューという出版社兼買い切り方式の少数卸、そして一冊!取引所の誕生

更には書店「読書のすすめ」がそうした一人書店への本を仲介してくれるという。



本を売る人へのハードルがかつてなく下がり、鹿野さんと言う先人もいる。

読書好きほど、人と同じ本を読んで共感したい。という希望を抱いている人種もいないだろう。


出版不況の現在、生半可な覚悟で書店を生業にするのは難しい。

でも、自分が魅力的に感じた一冊を誰かと共有できたら・・・

もし、自分が共有したいその一冊が、心を込めて編まれた一冊で、でも大量生産されず、一般の書店に出回らないとしたら・・・


このまま書店が減れば、出版社で魅力的な企画は一層通らなくなり、ヘイト本や、どこかで見たことのあるようなビジネス書など、大衆に迎合した、面白くも無いけれど売れる本だけが生き残っていくかもしれない。


でも、自分が読みたいのはそういう本だろうか。自分が繋がりたいのはそういう本を読む人種であろうか。


何でも手に入る都会は別に良いのである。これからの時代、同好の士を地方でどう見つけるかが、地方に人が戻るかどうかの分水嶺ではなかろうか。


1つの書店が、日々大量に出版される書物の中から、万金に値する一冊を発掘するのは限界がある。

似た感性の羅針盤を持ちつつも、抱える文脈が異なる人々がそれぞれに書物の山に分け入り、それぞれが輝く一冊を発掘できる時代が来たら、それってもの凄く豊かなことではないだろうか。


その一冊が出版社を生かし、次なる名著の誕生に寄与する。


文化は皆で守るもの。そんな認識が育まれていくといい。


生計を立てる手段ではなく、文化を守り、培う一助として、本を商うという選択肢が生まれた。


そして本を愛するその人々がてわたす本には物語が宿る。


今まで、読書というものは書籍の種類に関わらず一般化して捉えられてきた。


価値観はこのあたりだろう。


本をどこで買うのか

誰の本を買うのか、どんな本を読むのか


ここに今、誰から「てわた」された本を読むのかを追加しよう。


一人書店は、関係性を生むための商いになる。


それは、自分が信じる一冊を試金石に、この世の中から出会うべき誰かを見つけ出していく営みなのだ。


松浦信孝の読書帳

本を読んで考えたことを中心に好き勝手書いてます。

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