22冊目 鹿の王 上 生き残った者

医療✖️疫病✖️陰謀

5年前のベストセラーをこのタイミングで、読む。


先日参加したZoom飲み会で、参加者の方が読んでいるというのを聞いて、買ったものの読まずに本棚に埋まっていたこの本を発掘した。

思想とか、哲学とか、宗教の本が好きでよく読むのだけど、それだと物語欠乏症に陥ってしまう。


ドラマを見たり、映画を見たり、作られた世界、物語の中にどっぷり浸かる時間ってやはり重要だと思う。



特にこれだけ目に見えない圧力を感じながら生きてると、行動だけでなく心まで自粛、萎縮してしまう。


マイナスなことばかりに見える状況の中で、一旦思考をネガティブから切り離すための絶好のシェルターに、物語こそがなり得ると思っている。



そんな状況で、この本ですよ。


ベストセラーの中には自分には刺さらない本もあるのだけど、この本はまだ上巻しか読んでいないが、凄く刺さってくる。


舞台設定が絶妙。昔の中国的な国が辺境の国々を征服していく中で捕まった奴隷、ヴァンと、物語序盤で出会う赤子ユナの側から語られる物語と、中国的な巨大な国の中に入り込み、圧倒的な医術で人を救っており、尊重されながらも畏れられる医術師ホッサルの側から語られる物語が、交互に進行していく。


病素を宿した獣に咬まれることで発症する、黒狼熱、というかつての国を滅ぼした伝説の病が、物語の序盤でヴァンを襲うが、奇跡的にヴァンだけが生き残る。生き残り、奴隷の身分から逃亡する際に同じく病を逃れた赤子を見つけ、ユナと名付けて育て始める。病をきっかけに、父と子の物語が展開する。

病が発生した現場に後日到着したホッサルは、唯一生き残った存在に医術師として興味を持ち、ヴァンを追う。そして二人の運命が交錯していく・・・。


みたいな感じです。上巻しか読んでないのに書評を書くという無謀さ。


ファンタジー世界だけど、作り込みがリアルで、国同士の力関係、征服するもの、されるもの、征服されながらも巧みにその国の中で生き抜くものなどが巧妙に描かれる。


また物語に絡めて疾患、医学知識などがリアルに描かれている。疾患とその対処法が、妥当なラインで描かれ、医療系の人間が読むと、更に面白いと思う。なるほど、それをこう表現するのか、と膝を打つ場面も少なくない。


東洋医学的な大国の旧体制の医療体系と、ホッサルの操る西洋医学的な医療体系の違いも、医療で何を重んじるかという違いとして描かれる。生活の医療か、生命の医療か。


現実世界で疾患が流行している中で、疫病の物語を読むというのも、また微妙にリンクしており、示唆に富む。


上巻だけで500ページとボリュームがあるが、重くないので意外とすいすい読める。

既に文庫化もされている。


世相に疲れた方には、おすすめのシェルターになるであろう。


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松浦信孝の読書帳

本を読んで考えたことを中心に好き勝手書いてます。

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